「人殺しを経験してみたかった。人を殺したらどうなるか、実験してみたかったと言ってもいいです」。2000年5月、愛知県豊川市で実際に起きた老婆刺殺事件。その犯人である男子高校生の証言を手がかりに、都心のキャンパスに通う大学生たちが、この衝撃的な事件の映画化に取り組んだ。彼らの<殺人>をめぐる動揺や、<犯人>に対する共感と反撥、そして映画製作と濃密な関係を深めるにつれ、私生活で複雑に錯綜してゆく<愛>のゆくえ。現代を生きる等身大の若者像を鮮烈に刻印した、新しい青春映画の誕生である。

都心にある大学キャンパス。“映像ワークショップ”を受講する学生たちは、高校生が犯した<不条理殺人>をテーマに、「タイクツな殺人者」と題された映画を製作することになった。クランクイン5日前、主演俳優が突然降板し、助監督の久田は代役探しに奔走する。一方、監督の松川は妄信的な恋人ユカリの存在に悩まされていた。やがて、主役の代役に演劇サークルの池田が抜擢され、こうして撮影リハーサルが始まるが、<殺人>をめぐるテーマの解釈について、松川は久田や池田たちと対立を深めてゆく。果たして、狂騒と白熱の映画製作の渦中に投げ出された学生たちは、無事、「タイクツな殺人者」をクランクインさせることができるのだろうか……。

映画という集団作業における非日常環境に置かれた学生たちは、一方で、恋愛問題や就職活動といった個人的な現実に苛まれている。ごく平凡な高校生が犯した殺人や暴力について、喧々諤々と口論を繰り返すうちに、彼らの立ち惑う青春の焦燥や奔放な愛のエネルギーが、映画製作の現場に大きな影響を与えてゆく。そして取り返しのつかない決定的な出来事が!青春の無軌道さと生真面目さを同居させた彼らが、<不条理殺人>の向こうに見い出したものとは?

本作のタイトルに引用されている「カミュ」とは、言うまでもなく20世紀のフランス文学を代表するノーベル賞受賞作家アルベール・カミュのことである。1913年、アルジェリア生まれの彼が27歳のときに発表した小説「異邦人」は、“太陽が眩しかったから”殺人を犯した主人公ムルソーの<不条理殺人>が社会現象となる衝撃を生み出した。それから60年後の2000年、老婆刺殺事件の犯人である男子高校生は、“人を殺したらどうなるか実験してみたかった”とその殺人動機を語り、<現代版ムルソー>と喩えられるなど、センセーショナルな話題を巻き起こしたのは、今も記憶に新しい。

その「異邦人」と老婆刺殺事件に共通する<不条理殺人>をモチーフに、殺人の衝動と倫理、生と死の本質という難題を、文字通り<カミュなんて知らない>世代である現代の大学生たちに問いかけるという、野心的かつ斬新なアプローチを展開させた監督は、『さらば愛しき大地』『チャイナシャドー』など既成の映画ジャンルを超越した精力的な映画作りを続ける柳町光男。『旅するパオジャンフー』以来となるこの最新作では、こうして学生たちの間で生まれる波紋のゆくえを、映画製作の現場で意気盛んなキャンパスライフを縦糸に、事件に対するアプローチを探求し続ける彼らの創造力を横糸に、繊細かつ大胆に紡ぎあげ、疾走感あふれる“柳町ワールド”、その新境地を拓くのに成功した。とりわけ、老婆刺殺事件へと至るクライマックスは圧巻で、その身も凍るような迫真のシーンは、観る者に現実と虚構の狭間を衝撃的に突きつけることは間違いないだろう。また、映画製作の現場を舞台にしているだけに、『アデルの恋の物語』や『ベニスに死す』、そしてヌーヴェルヴァーグの名作の数々が、オマージュにも似たパロディとしてたっぷりと盛り込まれているのも、注目すべきユニークさである。
出演は、ハンサムだが女と金に優柔不断な監督の松川に、『きょうのできごと』『血と骨』など今や気鋭の日本映画には欠かせない男優のひとりとなった柏原収史。松川の恋人で、『アデルの恋の物語』の“アデル”のような妄信的なユカリに『TOKYO EYES』でヨーロッパの映画人から高く支持された個性派、吉川ひなの。その生真面目さゆえに自身に混乱を抱えてしまう助監督、久田に『バトルロワイヤルII 鎮魂歌』などで成長著しい前田愛。物語の鍵を握る“異端児”池田に『PAIN』の主演で注目された新鋭、中泉英雄。そして、大学教授を魅了して翻弄するレイに黒木メイサのほか、期待の若手俳優が丁々発止のアンサンブルを織りなしている。また彼らの指導教授で、学生たちから“『ベニスに死す』のアッシェンバッハ”と称される元映画監督の中條に本田博太郎。学生の若さの傍観者的存在として、妻に先立たれた男の老いの悲哀を際立たせた名演は必見だ。

撮影は『はつ恋』『お墓と離婚』の名手、藤澤順一。音楽は国際的ミュージシャンとして活躍し、柳町作品では『チャイナシャドー』『旅するパオジャンフー』に続く3度目のコラボレーションとなる清水靖晃。都会の異空間であるかのような視覚的効果あふれる大学キャンパスは、2004年に創立130年を迎えた立教大学が特別協力というかたちで賛同、全編にわたってロケ撮影されているほか、池袋西口界隈の街並みが青春映画に相応しい若さの臨場感を醸し出している。また立教大学の映画研究会を中心に、多くの学生スタッフが参加、キャンパス内でヒップホップダンスやパントマイムに興じる学生たちの奮闘ぶりも、作品の瑞々しい躍動感の一端を担っている。
本作は、2005年5月のカンヌ国際映画祭<監督週間>に出品され、さらに秋にはニューヨーク映画祭で公式上映を果たすなど、国際的にも高い評価を獲得した新たなる“柳町ワールド”最新作、ついにその全貌が明らかになる!

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